常位胎盤早期剝離について

こんにちは。

今回は、私が経験した「常位胎盤早期剥離(以下、早剥)」について、その恐ろしさと大事な症状、学術的な知見をお伝えしたいと思います。

私が医学生の時、「早剥」は産科の危機的・緊急疾患として印象に残っていました。板状にお腹が硬くなる、痛みがある、出血もある、という症状が有名です。しかし、実際に自分の身に起きた時、痛みも出血もありませんでした。ただお腹がずっと張って硬い状態でした。その時、この病気が頭をよぎらなかったわけではありません。37週だしお腹が張るのも当然。「まさか早剥じゃないよね」と思い込んでいました。すぐに病院に受診していれば、結果は変わったのかな。今でもそれは考えてしまいます。

その結果、内出血型早剥+子宮内胎児死亡の診断となりました。私は自分の命こそ助かりましたが、血小板値が下がり、産科的DICという凝固異常の状態となり、12リットルの輸血をしながらのお産でした。

さらに重篤となると、妊婦の命も脅かされます。妊婦さん全員に、この病気について知っておいて欲しいです。一番大切な症状は「治らない張り」だと思っています。

妊娠後期でどんなにお産が近くても、必ず張りには波があります

波がなく、張りがずっと(5分以上)治まらず続いている場合は、何かが起きています。すぐに病院に電話をし、指示を仰いでください。

以下、少し堅い文章ですが、早剥の疫学と危険因子症状タイプと母子の予後についてまとめました。

疫学と危険因子

日本産婦人科学会周産期委員会による「2004年に分娩した症例中で母体生命に危険を及ぼした症例」の全国調査の一環として、水上尚典らにより、常位胎盤早期剥離(以下、早剝)に関する解析が行われた。その報告1,2を引用する。
早剥の頻度は0.45%であったが、調査対象は高度医療機関の割合が高いため、実際には0.3-0.4%程度と推定されている。
危険因子としては加齢、多胎、妊娠高血圧症候群、切迫早産管理中、早剥既往、未受診などがあり、約23%にこれらの危険因子を認めた。なおこの調査では初産・経産は早剥に関連しなかった。

Tikkanenらのレビュー3によると、早剥の発生頻度は0.4-1%であり、米国よりも北欧でやや低い傾向にあるなど、国地域による若干の差がみられる。50以上の危険因子が挙げられ、リスクが高い順に早剥の既往、前期破水、妊娠高血圧症候群、多胎妊娠などがある。その他、加齢、喫煙やアルコール摂取など。

症状

持続的子宮収縮、腹痛、出血が主だが、重症度や個人間により程度は様々で、症状がほとんどないこともある。
特に注意すべき症状:持続的子宮収縮=お腹の張りがずっと収まらない、板状硬(触ると板のように固い)。これらの症状があると、産科医はまず常位胎盤早期剝離を疑う

タイプと母子の予後

早剥のタイプには外出血型と内出血型があり、これらのタイプにより症状や重症度が異なる3。
外出血型:早剥の約80%. 性器出血がしばしば観察される。子宮内圧が上昇しにくいので、重症化しにくい。
内出血型:早剥の約20%. 子宮内圧が上昇するため早期からDICとなり重症化しやすく、母児ともに予後が悪い。

[参考文献]

1 水上尚典ら、周産期委員会報告.早剝、HELLP症候群ならびに子癇に関して、日産婦誌61: 1559-1567, 2009

2 山田崇弘ら、早剥の疫学 最近の動向、臨婦産65: 1298-1300, 2011

3 M. Tikkanen Placental abruption: epidemiology, risk factors and consequences Acta Obstet Gynecol Scand 90 (2011) 140-149.

4 真木正博:常位胎盤早期剥離. 周産期医21(臨時増刊号): 243-244, 1991


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